小津の秋 【ストーリー】

新聞記者の明子は土偶の取材で蓼科高原を訪れる。明子は取材とは別に蓼科で、父の生前を知る人間に会えるという直感めいたものを感じていて、父の遺品を携えていた。
映画祭の準備で賑わう蓼科で、明子は無藝荘の守役と出会い、亡き父の過去を追う……。

見どころ

小津監督が仕事場として使った蓼科の別荘「無藝荘」を舞台に撮影を敢行、茅野市各所でオールロケして完成した秀作。
キャストには高い評価を受けた『二人日和』の藤村志保、栗塚旭コンビに沢口靖子が加わり、深まり行く秋の蓼科高原を舞台に三人の織りなす心の綾が丹念に描かれます。

小津の秋に関するレビュー

「縄文のビーナス」は愛と豊饒の女神。しかし嫉妬と恨みに狂う女の情念の象徴でもある。

一人の男の身勝手が、3人の女を不幸に追い込む。
裏切られた妻と娘。果たされなかった約束の代償を支払わされる女。
長い時の流れを経てもついに消えることのなかった、女たちの怨嗟は炎となって燃え上がる。

そしてもう一人の男。
世知に富んだしたたかさを持つ。
だが時に、哀しいほどに滑稽で、歯がゆいほどに誠実で。
実に複雑な味わいの男である。
彼の、愛というより心が、かつての男の裏切り行為を償う如く、無辺に広がる、薄絹の手触りの秋の色のベールのように、女たちを包み込んでゆく。

沢口靖子、彼女の知的で透明感ある美しさは天下一品。清浄さが蓼科の風景に溶け込んでゆく。
藤村志保、貫禄の演技。栗塚旭との絶妙の呼吸。彼の前では、可愛さいじらしさがにじみ出る。
そして栗塚旭、淡々とさりげない演技にこもった大きな温かさ。癒しの演技。
これほどの広がりある演技は観たことがない。
『二人日和』以来、栗塚と藤村こそ大人の恋愛を人生の意味を投げかけながら、 堂々と語れるゴールデンカップル。理想の二人。
果たして次は、どのような人間ドラマをみせてくれるのだろう。

冷たく神秘的な青さの女神湖、神さびて太古から鎮まる社(やしろ)、奇怪な大きさの木の洞(うろ)。
錦秋の蓼科に、悠久の時の流れと、自然に調和して生きる人間の営みが、息を呑むほどに美しく画面に描き出される。
全てを浄化するように、ひらひらと舞い落ちる雪がいつまでも心に残る、珠玉のラストシーン。
大人のための映画である。是非、ご覧頂きたい。

このページの先頭へ

映画イメージ画像